![]() | 明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045) (アスキー新書 45) (2008/01/10) 佐藤 尚之 商品詳細を見る |
メディアやコミュニケーションの分野に関心がある人は、必読の本。現在のメディアの置かれている状況を、単なるネット礼賛でもなく、一方的な既存メディアの否定でもなく、簡潔にわかりやすく、述べている。
広告を扱った本というと、自称「成功事例」の単なる羅列であったり、広告を広告しているかのような、実践と中身を伴わない「机上の空論」であったりすることも多いが、この本は著者の理念と実践の両方から語られていく。
まず、著者は広告を消費者へのラブレターに例えて、超・情報供給過多の時代に「ラブレターは普通に受け取ってもらえなくなった」という現実を認める。認めたうえで、「明日の広告」を考えていくのだが、その考え方が実に本質を捉えている。
徹底的に消費者本位で考えるということ。それも「20代女性」といった単なる属性からではなく、メッセージを届けたい相手をリアルに考える。そうすれば、これまでのマス4媒体とネットの組み合わせという、固まった「メディア・ミックス」ではない、新しいコミュニケーションのあり方が生まれてくる。ファミリーレストランも公園のゴミ箱もメディアになりうる。この本に取り上げられている「スラムダンク1億冊キャンペーン」の具体例は、広告の最前線に立ち、ネットと既存メディアの広告の両方に向き合ってきた著者ならではの、こうした考えの実践例だ。
また、テレビの可能性についても触れている。テレビを話題にしていた家庭のお茶の間は崩壊し、テレビの力は弱まった。だが、これからはニコニコ動画や2ちゃんねるのような、ネットを介した「ネオ茶の間」が出現し、テレビ広告は息を吹き返すという。
また、これまではテレビ広告が圧倒的に強かったので、テレビ広告が商品の認知から、細かい説明まで、すべてを担わされていた。それが、例えば、細かい説明はネット広告などといった役割分担ができるようになる。テレビ広告は本来の得意技である認知の拡大に専念できるようになるからこそ、テレビ広告の可能性は広がるという。
ただ、留意すべきなのは、著者が語っているテレビ広告の可能性はあくまでコミュニケーションを最適化しようという広告会社からの立場であって、テレビ局からではないということ。例えるなら、これまでは運送会社に荷物の輸送を頼むにしても、大型トラック業者しかなかったようなもの。だから、要冷蔵の生鮮食料も、割れ物も、すべて4トントラックで建設資材と一緒に届けざるを得なかった。それが、今ではバイク便に自転車便、宅急便に航空便と、手段が複数になって、送り手からは最適化しやすくなったということ。トラック運送業者から見ると、積荷は確実に減る。
また、テレビ番組の強さについても、この本では言及している。ネットが動画の時代に入って、圧倒的に高いテレビの制作能力はもう一度見直されるという。確かに動画の制作は難しいし、この点ではテレビ局の制作能力は高い。ただ、僕自身が違和感を感じているのは、ネットが動画の時代に入っても、既存のテレビ番組の延長線上にはないものが、生まれてくるのではないかと思う。
ネットでブログを書き、ケータイでメールをするようになっても、別に新聞や雑誌が売れるようにはならなかった。誰も朝日新聞の天声人語を書いている人に文章を添削して欲しいとも思わない。むしろ、ケータイ小説のような新たな何かが生まれてくる。動画でも、同様になるのではないか。
いずれにせよ、この本は感想がこれだけ長文になってしまうことが一番わかりやすいかもしれないが、消費者もメディアも変わり続ける時代には思考停止していては全く役に立たないということを思い出させてくれる。


