「大きなマスコミの企業を辞める人はいるのですか。辞める理由はどういうのがあるのですか?」というメールをこのブログのメールフォームから頂いた。ということで、新聞の全国紙とテレビのキー局の退職事情について、書いてみる。

まず、新聞社。辞める人は若手、中堅社員でも、一般企業と比べると少ないものの、それなりにいる。入社2、3年で辞めるのは、やはり年功序列であったり、あるいは取材そのものといった、新聞社の体質についていけずに辞めるという人はいる。

また、新聞社とNHKは若手は地方勤務から始まることが多い。地方での地味な仕事や、田舎そのものに馴染めず退職する人もいる。

30歳くらいの若手から中堅の間くらいで辞めるのは、同業他社への転職というのがある。新聞社は同じ全国紙でも、上位の朝日、読売、日経と下位の産経、毎日では、給与の差がかなりあるというのが、大きな理由だ。

テレビ局だと、辞める人はかなり少ない。ほとんどいないと言っても良い。テレビ局も確かに入社1、2年で辞める人はいる。テレビ局は他の業界とは、かなり体質が異なる。しかも、製作や報道の現場だと拘束時間が極端に長い。生活のすべてになってしまう。製作現場は特に徒弟制度のような雰囲気も残るだけに、馴染めないと、本当につらい世界になってしまう。けれど、馴染めない人というのは、それほどいない。大体定着してしまう。

辞めない、あるいは辞められない理由は、大きく2つ。

ひとつは、かなり閉鎖的で固定した業界だということ。例えば、テレビ局で番組製作に携わっていたとして、転職先はどこがあるだろうか。番組制作を続けたいというなら、まずは他のテレビ局ということになるのだろうが、そもそもテレビ局は中途採用に熱心ではない。理由はいくつかあるが、退職率も低いので、補充も必要ない。特定のあるテレビ局にだけしかない技術やノウハウがそれほどあるわけでもないので、わざわざ他局から人を採る必要も無い。

テレビ局以外の転職先を考えるとしても、番組制作の能力を買ってくれる企業は、テレビ業界以外にはなかなかない。商社や小売で、営業やマーケティングのプロフェッショナルになっていれば、メーカーであれ、コンサルティングであれ、様々な転職先の可能性があるだろうが、テレビ局はかなり閉じた業界なので、他の業界で活かせる経験や知恵が少ない。

もうひとつの理由は待遇面。番組制作の例で言うと、テレビ局社員と製作会社の待遇の差はとてつもなく大きい。生涯賃金は3倍や4倍は違う。

番組制作以外の、例えば営業や広報といった、どこの会社にでもある部門の担当になったとしても、他の業界でテレビ局並みの給与をくれる会社はほとんどない。例えば営業で言うと、テレビ局の営業は本当に厳しい荒波に揉まれている業界の営業と比べて、格段に楽だ。間に広告代理店が入り、しかも新規参入もないのだから。他の業界の営業として、成果主義で数千万稼げるような営業の世界に入ったとしても、活躍できる人は失礼ながら極めて稀だろう。

テレビ局以外でも外資や成果主義の徹底した会社で、テレビ局並みかそれ以上の給与の会社はそれなりに存在する。だが、金融でも外資でも、そうした高給は、社内外の競争で勝ち取った成果であるのに対して、テレビ局の高給は、誰でももらえる高給だ。信じられないかもしれないが、毎日、高校野球をぼんやり見たりしているだけのアルバイト以下の仕事しかしていないような、おじさんが本当に年収2000万とか普通にもらっている。大企業の役員並だったりする。

ここまでの話で「テレビ局というのは給与も良くて、入ってしまえば、なんて良いところなんだろう」と思うかもしれない。その通り。すばらしい世界だ。だが、向いてない人というのもある。

まず、どこでも通用するような、強いビジネスマンになりたいと思っているような人。

テレビ局は閉鎖的で高待遇ゆえに、就「職」というより、就「社」。これまで書いたように他社や他の業界に移りにくいので、自分で人生の選択権を確保するのは難しい。意に沿わない仕事であったり、上司であっても、耐えるしかない。逆にクビになることもないし、リストラも無い。言うなれば、会社に人生を委ねているという側面はかなり強い。

また社会人を10年もやったころには、大学時代の友人たちが厳しい世界でそれなりにもまれ、成長している姿を横目に、自分との社会人としての実力差を感じながらも、給与は自分のほうが格段に良いという複雑な状況に直面するかもしれない。

ちょっとテレビの世界に厳しい書き方になったけれど、結論としては、テレビ局に向いている人は、番組制作とかテレビ業界でしかできない仕事を絶対にしたいと思っている人。もうひとつは、それなりの仕事で最大の給与をもらいたいという人。

向いていない人は、自分の意思で仕事をし、場合によっては退職も辞さない気持ちで会社と向き合いたいと思っている人。あるいは、ビジネスマンとして自分の力を徹底的に鍛えたいと思っている人だろうか。




2008.08.16 Sat l マスコミ裏事情 l COM(0) TB(0) l top ▲